一田憲子文筆家
手作りの楽しみは、材料を準備する時間、手を動かし作る時間、そして作ったものを使う時間が1本の線で繋がって生まれるものだなあと思います。作るだけで満足するより、それをいつもの暮らしの中に活かせた方がずっと楽しいし、材料を探す時に、少し視野を広げて、自然や環境のことまで想像力を膨らませれば、手作りという時間で地球とつながることができます。
ひと針ひと針縫う時間や、貼ったり、染めたり、組み立てるという手の実感は、世界で起こっていることを手元まで引き寄せて、自分ごととして考えるきっかけにもなるのだなあと感じました。
色鮮やかで愛らしく、丁寧に作られた1点1点の作品の向こう側に、手を動かす人の毎日がある、と思うと、すべての作品に尊さが秘められている気がします。
◆プロフィール
OLを経て編集プロダクションに転職後、フリーライターに。暮らしまわりを中心に、書籍、雑誌で執筆。企画から編集を手がける「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社刊)では、全国を飛び回り、著名人から一般人まで、数多くの取材を行っている。近著に「小さなエンジンで暮らしてみたら」(大和書房)「父のコートと母の杖」(主婦と生活社)など。自身のサイト「外の音、内の香(そとのね、うちのか)」を主宰。ブログ「日々のこと」をはじめ、「書く」ための舞台としてのポータルサイトとなっている。
https://ichidanoriko.com
大牧圭吾ニッポン手仕事図鑑編集長
今回の審査は、「見てみたい!」「使ってみたい!」「やってみたい!」という魅力的な作品がずらりと並び、審査員の意見も割れて悩みましたが、そんな作品たちと向き合えた時間は、心が踊る楽しいものでした。
「和紙で作ったアロマハリコ」「お針箱」など、今すぐ誰かに話したくなる作品の中で、特に印象的だったのは、高校生たちからの意欲的な提案です。「みみふぁ」はただのアップサイクルで終わらず、織物の端材に新しい価値を見出し、「強化型生分解性プラスチックのルアーたち」は同じ釣り人として、海への深い愛情が感じられて嬉しく、これからの釣りの新しい形を提案してくれました。
これらの作品に限らず、今回の受賞作品すべてに、遊び心と、今の時代の課題と向き合う熱い想いが詰まっていました。きっと、これからの日本のものづくりに前向きな刺激を与えてくれたと思います。次回作で、また新しい驚きと出会えることを楽しみにしています!
◆プロフィール
2015年1月、「ニッポンの手仕事を、残していく」をコンセプトに掲げる動画メディア『ニッポン手仕事図鑑』を立ち上げ、編集長に就任。手仕事・伝統工芸の職人のドキュメンタリー映像を制作。日本の未来に残していきたい技術や文化を、国内外に向けて発信している。2020年4月、総務省が定める「地域力創造アドバイザー」に就任。現在は「年間100人の後継者を産地に」をミッションに掲げ、『後継者インターンシップ』を全国各地で開催。これまでに50名を超える後継者を誕生させた。著書に『子どものためのニッポン手仕事図鑑』があり、今秋には新刊『ときめくニッポン職人図鑑』を発売予定。
https://nippon-teshigoto.jp/
指出一正ソトコト編集長
今年度も全国から個性豊かで魅力あふれるさまざまな作品がエントリーされて、審査をする側もワクワクさせていただいた。
企業・団体部門と個人・グループ部門に通じて見える傾向は「リジェネラティブ」という言葉で表すことができる。リジェネラティブは「再生させる」の意味で、自然環境の回復をルーツに持つが、現在では社会やまちづくりの分野でも広く使われるようになった。そもそも、ホビーが、人をより幸せな状態に導くのだとしたら、ハンドメイドはリジェネラティブな行為そのもの。「お針箱」のように、小さく可憐な優しさの詰まった作品や、「お花循環型クラフトポット」、「和紙で作ったアロマハリコ」など、人の生き心地のよさを暮らしに与えてくれる存在が目立った。
高校生がつくった「強化型生分解性プラスチックのルアー」たちの、そのこだわりには圧倒された。楽しい時間と健やかな未来の両立の願いが込められている。
◆プロフィール
『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現職。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、山形県金山町「カネヤマノジカンデザインスクール」メイン講師、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」メイン講師、福島相双復興推進機構「ふくしま未来創造アカデミー」メイン講師、秋田県鹿角市「かづコトアカデミー」メイン講師、群馬県庁31階「ソーシャルマルシェ&キッチン『GINGHAM(ギンガム)』」プロデューサーをはじめ、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房、総務省、国土交通省、農林水産省、環境省などの国の委員も務める。経済産業省「2025年大阪・関西万博日本館」クリエイター。上智大学「オールソフィアンズフェスティバル2025」実行委員長。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)、最新刊は『オン・ザ・ロード 二拠点思考』(ソトコト・ネットワーク)。
https://sotokoto-online.jp/
経済産業省講評
本作品は、必要な時にすぐ使えるように、針や針入れ、針やま、糸通し、握り鋏等の最小限の道具と小型の桐箱がセットになったもので、実用性と所有する喜びを兼ね備えた商品になっています。安芸太田町の名産品である広島針や兵庫県の伝統産業である播州の握り鋏、京都で一点一点作られている桐箱に京都の絵付け作家が手書きで一点一点描いているなど、日本の伝統工芸の技術と手仕事文化を結集した商品で機能美と耐久性を両立させています。また、糸通しの持ち手、針やま、鋏入れ等は、着られなくなった着物を素材に再利用するなど、持続可能なものづくりの視点も高く評価されました。